対象読者 #
- University of Texas at Dallas(以下 UTD)に出願しようと思っている日本人
- アメリカの非トップ州立校 CS 修士がどんなものかの一例を知りたい人
一方対象ではないのは
- 交換留学などで UTD に来るかもしれない人
タイムライン #
- 1 学期目: 車がないと何もない大学だと発見する。サマーインターンを探しつつ研究室に入る。なんかあまり面白そうなところに行けなさそうだな〜と思ったので途中から研究に専念することにする。ちなみにセキュリティ系の研究室。
- 2 学期目: 研究室の教授に誘われて PhD にコンバート。ただあまり良い環境ではないと思っていたので、途中で UT Dallas ではなく別の大学で PhD を取りたいとは思っていた。
- 夏休み: 研究をしていた。プライベートで色々ありここらへんから完全に日本に帰りたくなる。夏暑すぎる。
- 3 学期目: 指導教員がネチネチ夏の成果に言ってくる&授業を取るなと言ってくる。これがアカハラかな〜と思ったのでやめる。日本の会社の内定をもらう。残りの期間は何にもやる気がなかった。
- 4 学期目: 研究をやらなくて良くなったので時間に余裕ができ精神的に安定する。時間管理もなぜかやめてからの方がうまくできるようになる。卒業。
修士の授業について #
以下の授業を取った。
- 1 学期目
- Discrete Structures
- 離散数学の内容。学部で離散数学の講義を受けていなかったので必須だった。集合論から基礎的なグラフアルゴリズムについて学んだ。
- System Security and Binary Analysis
- 元指導教員の科目。CTF スタイルで講義で色々な脆弱性をついて隠された文字列を取得し、バイナリレベルの脆弱性について学んだ。
- Advanced Computer Networks
- ネットワーク。学部でやるものよりも抽象度が高く、ISP や BGP のアルゴリズムなどについて学んだ。
- Discrete Structures
- 2 学期目
- Compiler Construction
- コンパイラの基礎的なアルゴリズムについて学んだ。
- Advanced Programming Languages
- 型理論や論理型言語について学んだ。この先生の講義は大好きだったので次の学期にも取った。
- (研究用科目)
- Compiler Construction
- 3 学期目
- Design and Analysis of Computer Algorithms
- 基本的なアルゴリズムについて学んだ。
- Language-based Security
- プログラミング言語の機能を使ってセキュリティを担保する最新研究について論文を読みながら Coq を使って私でも現実のプログラムの性質を保証するというもの。かなり面白くてこの研究室だったら PhD をやれると思う。
- Statistical Methods for Data Science
- 統計の基礎的な内容について学んだ。
- Design and Analysis of Computer Algorithms
- 4 学期目
- Statistical Methods in AI and Machine Learning
- グラフィカルモデルについて学んだ。
- Computational Logic
- 古典的論理や非古典的論理など様々な論理について学ぶと同時にそれらを用いたプログラミング言語を使った課題を行った。
- Advanced Operating Systems
- 名前詐欺で分散システムについて勉強した。
- Statistical Methods in AI and Machine Learning
全体としてレベルは正直低いと思う。大学の学部で習うような内容を扱う授業もある。一方、専門的な授業はかなりレベルが高く満足できた。私の大学はセキュリティが強みの大学なので、セキュリティに関連した授業は全体的に受講生も含めて質が高かった。大体仲が良い友だちはこの種の講義で作った。簡単な講義を取る人はほぼいない。 友人談だが、3 科目の場合 1 難 1 普通 1 易が良いらしい。私が過去に戻るのなら、最初の学期は学業以外に対応する必要があるので 1 普通 2 易にしていて、それ以外は私の好きな科目を取っていたと思う。
立地・キャンパス周辺について #
安全性 #
まず、めちゃくちゃ安全な場所だと思う。キャンパスは Dallas の Richardson の北部、ほぼ Plano にあるのだがここらへんは全米でもかなり安全な場所らしく夜中も普通に歩ける。まぁ、歩いてもなにもないので歩かないけど。
娯楽 #
一方、ナイトライフなどは期待しない方が良いかもしれない。アメリカの大学(と言ってもすべての大学の事情について知っているわけではないが)は都心にあるものと郊外にあるものに分かれると思う。いくつかの大学を訪れたことがあるが、郊外にあるものでも大学周辺に飲食街など娯楽施設があるので普通であった。しかし、UTD のキャンパスからすぐ北に多少飲食店があるが片手で数えられるほどである(留学時はクッキー屋、ポキ丼屋、タイ料理屋、中東料理屋、バーがあり、どれもまぁ食える程度の味)。一応 2026 年から Carrollton のダウンタウン、Dallas のアジア系のレストランがたくさんある場所への鉄道が通るため1多少は改善されるはずである。ナイトライフを楽しみたい場合は、車か車を持っていて一緒に行ってくれる友達が必要である。私の場合は誘うのが面倒で当初は本当に暇だった。研究室をやめたあたりから色々と吹っ切れて友達を気軽に誘えるようになったので、この種の厚かましさが楽しむためには必要なのかもしれない。
スーパー #
生活雑貨を揃える際には通販でも可能である(Walmart+か Amazon Prime を契約する学生が多い)が、足を運びたい場合もあるだろう。実際、生鮮食品など品揃えはそちらの方が良い。歩いていくと大体 30 分くらいの場所に Target があり、学内から定期便が Walmart にも通っているが毎回これに乗るのが私の場合はかなり面倒だった。そもそもアジア系の食品などはここらへんでは扱っていなかったり割高なので、結局ルームメイトに食材入手と料理は任せることにした。彼はバスで買い物をしていたらしい。
日本人 #
日系企業の米国本社が多く拠点を置いており、Carrollton に補習校があるので子供から大人までいる。私は補習校の学生とボランティアで出会いそこで補習授業をしていたので一番会っていたのは小中学生だったかもしれない。大人の日本人と会いたい場合は Meetup 経由で日本関連のイベントや言語交換のイベントに行くと(それ目的のアメリカ人に加えて)日本人にも会える。その場合は現地で働いている人が多い。 大学に絞った話をしよう。UTD は早稲田大学から交換留学の提携をしているので、年に 5 人位学生がやってくる。年度にもよると思うが、彼らは基本的に遊びかつ英語の勉強で来ており、正規の学生や現地で育った日本人とは結構感覚が違うと感じた。 正規留学をしている学生は学部だと 1 学年につき 5 人に満たない程度だ。修士も同様である。そのため、学部・大学院の全日本人を合計しても数十人しかいない。そのうち、親の仕事の関係で Dallas にずっといる人を除いて、留学しに来た正規の学生は 10 人もいない。早めに現地で育った日本人と知り合っておくと何かと便利(車を持っていて一緒にどこかに行ける等)なので友達になっておくと良い。ただ、OPT や CPT などを使いたい場合はあまり当てにならない(グリーンカードを持っていることが多いので)。JLA(Japanese Language Association)に大体日本生まれアメリカ育ちの日本人(米国人?)がいるので、とりあえず最初はそこに行くと良いと思う。
余談だが留学生は基本的に母国のコミュニティと上手く付き合った方が良いと思う。留学をして日本人と馴れ合うのはだめと思っている人はいるかもしれないが、別にそんなことはない。例えば、インド人や中国人などは巨大な留学コミュニティを作りその内部で情報を回し効率的に生活をしている(少なくとも観測範囲では)。日本は同質性が高い国なので海外でも同化しないといけないと思う人が多いのかもしれないが、どうあがいても日本人なのは変わらないので快適に過ごすために使えるものは使った方が良い。無理にハードルを上げないで楽しく生活するのが一番だ。最低限のライフラインを作り、その上で例えば英語が話したかったら英語を母語とする友達を作れば良いだけだ。そもそも人間を語学の練習マシンみたいに認識するのが個人的によく理解できないが。
学生・教授 #
CS 修士の学生はほぼインド人だ。これをネタにして UT Delhi と呼ぶ人もいる。ちなみに私もその一人。学部生や他専攻のことはよくわからないが、そもそもうちの大学には有色人種がかなり多い。ラテン系や中東系を多く見かける。そのため、いわゆる「金髪碧目」のアメリカ人を探している人は来ない方が良いと思う。大体そういう感じの人は私立の学費の高い大学に通っており、Dallas だと SMU(Southern Methodist University)という大学にそういう感じの人が多い。みんな表立っては言わないが、思うことがあるらしい。
教授は大体 Ivy だったり、CMU や UCB などトップ校出身であり、結局アカデミアに残るにはそういう大学の方が良いのだなぁと感じた。まぁ、お金に余裕がありインダストリーに行かなくても済む人が多いだけかもしれないが。
リクエスト返し #
リクエストをもらったので、それに対する返答をここに書く。
Dallas の気候面での住みやすさ/住みにくさ #
夏、冬、春、秋という順で話そうと思う。
年間を通じて暑い。その中でも夏は 40 度近くまで上がり、日差しも強い。私は家と研究室の往復で外に出る時間は限られていたが、それでも日焼けするほどだった。アメリカの公的機関のデータによれば、7 月と 8 月の最高気温は平均で 95°F、つまり 35 度程度ある。
参考: https://www.weather.gov/fwd/dfw_records_normals
しかし、なぜか冬は雪が降ることがある。最近は毎年雪が降っているようだ。雪が降ると車社会の Dallas は活動を停止する。そのため、授業も宅配なども止まる。冬場は雪に備えて食料などの備蓄はした方が良いだろう。
春は気温が快適なのだが、問題は花粉だ。私はアレルギー持ちなので、春は本当に辛かった。ブタクサ系の花粉だと思うのだが、鼻水が止まらなくなり、目も痒くなる。現地の薬を買うことになると思うのだが、現地の日本人に聞いた方が良い。私は現地の日本人から教わった 1 錠で良いとされている薬を 2 錠飲むことで問題を解決した。もし花粉症の人で Dallas に来る予定の人は舌下療法などで事前に対策をしておくことをお勧めする。
秋は快適だ。気温も穏やかで過ごしやすく、花粉も春ほどはひどくない(ないわけではない)。
どの辺りの大学院に出願して、最終的になぜ UT Dallas への進学を決めたのか #
地理的にはアメリカならば限定せず、権威的にはCSRankingsというサイトを使って上から順番に出願し、合格したのが UTD だけなので UTD にした。
進学前は就活をしており、内定をもらった際に人生の先が見える感覚を覚えた。それが嫌で進学を決めたが、夏は落ち、冬は出願を忘れた。その状況(12 月とか?)で出願できるのがそもそもあまりなく(トップ校は 12/15 が締め切りなことが多い)、急いで受けた GRE と TOEFL のスコアを使って手当たり次第に(とは言え 15 校くらい)出した中で受かったのがここだったので入ることにした。
選択した Track #
“Traditional Computer Science”2を選択した。理由は学部が EEIC という電気系だったので、ガッツリ CS の理論面がやりたかったからである。難易度が高いのと、AI 系の方が就職の受けが良いので留学生は大体そっちを選んでいた。個人的には私の Track を選んで正解だった。私の興味がある授業が取れたからだ。ただ、OS の講義が OS じゃなくて分散システムだったのは解せない。
UTD に入学をしようか考えている人へ #
なんか他に聞きたいことがあれば追記するので GitHub にある連絡先か Issue に書いてくれると助かります。