想定読者 #

  1. リアルの知り合い

非想定読者 #

  1. GPIF の粗探しをしている人
  2. GPIF への入社を検討している人

概要 #

GPIF やめますた。

Quants Analyst として入社。6 月に入社したので、12-5+1=8 ヶ月働いたことになる。入る前は試用期間を超えたら入社エントリを書くつもりだったが、代わりに退職エントリを書くとは思わなかった。

入社 1 日目からやめたいと思っていたのでよくここまで続いたと思う。A 級バックラーの僕からしたら快挙だ。

入社経緯 #

この会社に応募したのは矛盾していると思ったからだ。役所に行けばわかるが公的機関とは効率性は無視している。非効率なのに投資運用に力を入れているというアクセルとブレーキを同時に踏んでいる状況が面白いと思った。

また、日本に貢献をしたいと思ったからだ。公的な機関であり非効率な部分があるならば自分が改善できることがあると思った。1

しかしながら、気持ちがあるくらいで金融の知識はさっぱりなかった。ところが幸運にも僕は新卒一期生であり GPIF をそもそも認知している学生(競争相手)が他におらず内定をもらえた。内定後に「好きにしていい」2と言われて「好き放題会社の(主に計算)資源を使ってやろう」とテンションが上り入社を決めた。

どうするべきだったか #

で、8 ヶ月しか持たなかったわけだ。

退職したのは畢竟「言っても無駄だな…」と諦観の域に達したからである。こうなったら在籍しても双方にとって不利益なので辞めた。


ここから個人の意見


ひどい IT 環境3やデータサイエンス(データサイエンスとは言っていない)4など採用時に伝えておくべきことは多々あったと思うし、縦割り組織5、「好きにしていい」の本当の意味6 など事前に通告されたかったと思う。また、入社時にどの部署に入るか伝えられておらずこちらから訴えた部署異動も叶わないといういわゆる「配属ガチャ」もあった。

改善するべき点は多くあり、良くなる確信はあった。しかし、GPIF は金融系の人からしたら終着点のような組織であり社内でなんとかしたいと思っている人は少数派だと感じた。そう認識・実感してからもう何も意見を言う気がなくなってしまった。


これからも個人の意見


おかげで会社や組織や周りの人間に頼っても仕方がないと悟れた。奇跡的に周りがやる気に満ち溢れている状況を前提にしないほうが良く、現在の環境を言い訳にせず自分の人生にはどこまでも自分が責任を持つ必要があると気付かせてくれたのはありがたい。

ここで終わらせず次に繋げるために何をするべきだったのか、何が重要だったのかを振り返ってみる。

報告の鉄則 #

最初に行うべきだったのは誰に報告するかを決めることだ。僕は最後まで上司が誰だかわからなかった7。その結果、IT 介護をすることになってしまったのだと思う。この悲劇はレポーティングラインを決めることで防げた。

また、レポーティングラインに一人は自分の話すことが理解できる人をいれるべきだ。自分がやっていることを毎回知識のない人にもわかるように説明をする必要があるのはかなりコミュニケーションコストが高く実質感情労働だ。感情労働はバーンアウトを生む。

  1. 誰に報告するかを決める
  2. 前提を共有し論理で話せる味方を探す

ちなみに 1 の条件が達成できないことはないが、会社によっては 2 の条件が達成できないこともあるだろう。そういう会社には今後入らないことにする

上司をマネジメントする #

レポーティングラインを定めたら、次はレポーティングライン上の上司をマネジメントをするべきだ。具体的には上司のスケジュールは把握して、空いているところに自分都合で予定を入れておくべきだ。可能なら側の座席に座り定期的にコミュニケーションを取る。要は距離を詰めるべきだった。

部下が上司のことをよくわからないのと同じくらい上司も部下のことがわかっていない。そのため、やりたい仕事、将来のキャリア像、何よりもやりたくない仕事を自分から伝えないと勘違いをされている可能性が高い。僕が IT 周りの便利屋をやらされたのは

社内の偉い人 1「DX しないといけないけど社内でやれるやつがいないなあ」

社内の偉い人 2「新卒にできるやつがいるらしいっすよ」

社内の偉い人 1「そいつやりたそうじゃん。そいつにやらせようぜ」

みたいな流れだったのではないかと邪推している。IT 系のことがやりたいならわざわざこんな法人に入らない。 就活のときに「やりたいことは問題解決」みたいなことを言っていたが、当然そんなもの当の僕しか覚えていない。そのため、上司の時間を奪って自分がやりたいことができる方向性に誘導することが重要だった。

辞める前に僕はオルタナの部署に移りたいと部長・CIO と面談で話した後に「もう少し投資運用部でやってみてから」という回答をもらった。偉い人が「やらせたいこと」と自分が「やりたいこと」を一致させるのが自分の人生に責任を持つことだと学んだ。

  1. 上司との心理的な距離を詰める
  2. やりたいことだけでなくやりたくないことを伝える

nice-to-have はやらない #

法人には本当に問題がゴロゴロしていた。しかし、nice-to-have をやっていると must をやる時間がないし、そもそも nice-to-have は重要度が低いから残っているわけで問題として面白くない。そのため、nice-to-have か must かを見極め、must のみをやる必要があった。

特に僕の場合は周りが投資のフロントにずっといた人や金融工学に詳しい人ばかりで、CS 専攻でちょっと IT 企業でインターンしていただけでもその方面ですぐにバリューが出せた。しかし、そうやって出せるバリューはほぼ nice-to-have だった。最悪手動でもできることばかりで、そんなのは効率が悪かろうが勝手にやらせておけばよかったのだ。時間が逼迫してプロジェクトに支障が出るようになり初めて must な課題となり、そこで注力するべきだった。その方が感謝もされる。周りが苦しみ助けを求めてから動くべきプロジェクトを漬物プロジェクトと言う。

入社当初は、「一つ成功例を作れば、周囲もそれに乗っかって改善活動が広がるだろう」と期待していた。しかし、実際には、nice-to-have な課題に取り組むと、逆に便利屋として無理やり頼られるケースが目立った。 周囲から具体的な改善案や意見が出るまでは、むやみに助け舟を出さないという戦略も必要だったのだ。

更に、must な課題に対して必要な専門知識が不足している場合、誰かがそれをより扱いやすい形、つまり誰でもできるタスクに切り分けてくれるのを待つしかない。 もしそうした支援人が見つからない場合は便利屋(小規模な問題をチマチマ解く雑用係)として一生を終える可能性がある。こんな罠があるとは、就職のリスクを過小評価していた。

  1. must な課題のみをやる(nice-to-have な課題は must になるまで後回し)
  2. 一人で解けない場合は、must な課題を切り分けられる人と一緒に働く

想定問答 #

GPIF は改善の余地があったのでは?辞める前にもっと戦う選択肢はなかったのか? #

可能性はあった。しかし、組織文化として「改善しよう」という意識を持っている人が少なく、上の世代も含めて「変わらないこと」が前提になっていた。自分でも色々やったが、新卒一人でどうにかなるものでもなく、「味方を見つけろ」と言われたが周りと話せば話すほど「自分は変わる気はないが周りには変わってほしい」と思うのが(自分を含めて)人の性なのだと思い、最初から似たような人を集めた組織に行くべきだと感じてやめた。

そんなに不満があるなら入社前にもっとリサーチすべきだったのでは? #

リサーチ不足だったことは否定できない。自分が勝手に期待していた部分もあったし組織の本質を外部から正確に把握するのは難しい。入社前に知れる情報には限界があり実際に入ってみないとわからないことも多いと学べたのが一番の収穫だったかもしれない。

IT 系のことができるから採用されたのに部署異動ができないで文句を言うのはおかしくないか? #

辞めるときに似た趣旨の発言をされた。この論理は IT で十分力が発揮できる前提だと思う。現時点で、IT で自分が発揮できる能力の MAX が 100、投資運用が 1 だとして、法人ではそれぞれ 1/100, 1/10 くらいの能力が発揮できるとする。この法人で IT に関するスキルは伸びず、投資運用に関するスキルが伸びるとすると、投資運用を+9 するだけで同じ程度に結果が出るようになる。仕事とは出した結果の積分であり今後の伸びを考えると投資運用の方が高い。だから明らかに投資運用の方で力を伸ばすべきだ…と僕は考えた。そのため、文句を言うのは短期ではおかしいかもしれないが長期では正常だと考える。

曲がりなりにもお世話になったのだから会社の悪口を言うのは良くなくない? #

まず、上のような文章を「悪口」と捉える人がいるのは知っている。ただ、あくまでここで書きたいのは今後僕がどうするかの部分であり、必要な経緯の説明はあくまでオマケだ。 その上でそもそも会社や法人とは労働契約を結んだに過ぎない。お世話になった人がいるのは確かだが、個人を批判しているわけではなく体制やシステムを批判しているのであって問題はないという認識だ。

「好きにしていい」と言われた本当に無制限に何をしても良いと思ったとしたら馬鹿じゃないですか? #

はい。馬鹿だった。入社前に「本当に好きにしていい」と言われたので、本当に好きにできると思っていた。

GPIF に向いている人はどんな人か? #

完全に自分の意見で公式見解は知らない。

「長期的に安定した環境で働きたい人」や「現状維持が最適解だと思える人」には向いている。一方で、「変化を求める人」「自分で物事を動かしたい人」「スピード感を重視する人」には向いていないと思う。自分はバックグラウンドはエンジニアリングなこともあり、変化に弱いという特徴がとことん向いていなかった。


  1. この気持ちはまだあるが、現行の GPIF でする気力はもうない。 ↩︎

  2. 今何でもするって言ったよね? ↩︎

  3. 三層分離ISMAPなど入社前に知っておくべきだった。ちなみに 2026 年 6 月までに改善するらしい。ただ、基本的に公務員にありがちな(諸説あり)人件費を考慮しないバックオフィスなので民間では考えられないような無駄な工程は消えないだろう(また「改善」という概念もない)。 ↩︎

  4. 事前に深層学習は行っていないと聞いていたが、クラウドを使ったスケーラブルなデータパイプライン、ビッグデータを用いた統計的機械学習などを想定していたのでかなりの齟齬があった。 ↩︎

  5. よく言えば多様なバックグラウンド、悪く言えば共通言語のない組織 ↩︎

  6. お偉いさんが IT をよくわかっておらず権限が SIer に支配されており何をするにも窮屈だった。また自分の能力不足なのだが、IT 介護で自分勝手にやる余裕がなかった。 ↩︎

  7. 飲み会で上司っぽい人たちがそれぞれ「自分は上司じゃない」と言っていてダチョウ倶楽部かと思った ↩︎