TL;DR #
- Sony Interactive Entertainment(以下 SIE)に転職して 10 ヶ月経った。
- DRM 関連の仕事をしている。
- 株主に優しい会社ってこういう感じかなと思っている。
入るまで #
前回の記事では前職に10 ヶ月で見切りをつけた話を書いた。今回は別の組織で 10 ヶ月を経験した経過を書く。
転職先は SIE だ。SONY の子会社で PlayStation を作っているところだ。運よくポジションが空いており、新卒時に内定をもらっていたので土下座をしたら入れてもらえた。
入ったモチベーションとしては以前から言う通り世界と戦える環境だと思ったからだ。SONY の代名詞とは昔は Walkman や BRAVIA だったが、今や PlayStation である。(持論)
ゲームは世界的に見ても成長産業であり、特にコンソールゲームは日本企業が強い分野である。そんなところでいいものが作れたら俺も使った人も幸せになれるので良いと思った。 なぜ任天堂ではないか?とよく聞かれるが、なんか受けてなかったから以上の理由はない。
前々から「無給でもしたい仕事をしろ」という先輩の言葉があり、実際無給でも PlayStation の裏側は見てみたいと思ったので快く(「『無給でも構わない』と言った手前言い難いが給料低いなぁ…」と思いながら)入社を決めた。大学院までの専門性から NPDRM という技術領域に配属された。
入った感想 #
入った感想は以下の通りだ。
- 待遇は悪い。
- 仕事は面白い。
My Salary is Bad #
待遇は周りの同年代のソフトウェアエンジニアと比較した話なので、当然だが一般論ではない。
待遇面はレイオフが 2024 年(去年)あったような会社だが、新卒の給与は他のメガベンくらいである。リスクプレミアムは特にない。福利厚生は新卒だと自宅からの通勤に 1 時間半以上かかる場合は借り上げ住宅に住めるが家賃補助もなく、持株会の補助は周りの日系企業勤務が 10%以上は当たり前のようにもらっている中で 5%である。5 年続けてようやく 7%に上がる。お金が欲しいなら別の会社に行った方が良い。というか、こういう年俸制度だと仕事ができる人は外資に流れるし、間接的に残った能力のある社員が損をするだけなので上がらないかなと思っている。
メーカー(母体がメーカーなのでメーカーとしている)あるあるなのだが、駐在をしないとお金は大してたまらない。駐在手当は結構良いので、駐在に行ける人は行った方が良い。駐在に行けない人は…まぁ頑張ってくださいという感じである。ソフトウェアエンジニアが駐在に行けるかは知らないが、周りはずっと国内にいる人ばかりであり、外資みたいなスカスカの福利厚生で JTC みたいな給与しか出ないなら、PlayStation の開発に強い興味がない限りは他の会社に行った方が良いと思う。あー、でも海外で採用されたら違うのでもちろん日本の話。技術者は日本では冷遇されるので仕方がないね…という卑屈な気持ちになってしまうので、海外法人の給与は絶対に見てはいけない。知ってた入ったが、それでも卑屈になってしまう。
1 つ良い点が副業が許可されている点だ。データ周りの業務もやりたいと思っていたので副業でやらせてもらっている。
My Work is Fun #
仕事の内容 #
仕事は面白い。私は DRM 関連の仕事をしている。DRM とは “Digital Rights Management"の略で、デジタルコンテンツの不正コピーを防止する技術のことである。我々のチームは PlayStation のゲームが不正コピーされないようにするための技術を開発している。
PlayStation Developer Wiki というサイトがあり、ここのNPDRMというページがだいぶ詳細に(PS3 がハックされたから?)我々のチームが開発している NPDRM の技術について解説しているので興味がある方はぜひ読んでほしい。ここで書かれている PS3 以降がどうなっているかは言えない(というかそもそも PS3 のソースコードは読んだことがないのでこの記述がどこまで正しいかさえ確証を持てない)が、読み物として面白い。
PlayStation の DRM から話題を一般的な DRM に戻して、DRM に関しては基本的な概念は下の図の通りであり、

暗号化されたコンテンツを配信するサーバーと復号鍵を配信するサーバーがあり、ユーザーはそれらを受け取ってコンテンツを復号して再生する。鍵はハードウェアに結びついており、他のデバイスでは再生できないようになっている。これにより、不正コピーを防止している。ぱっとこの図だけを読んで分かる人はいないと思う。卑近な例だと Netflix などのストリーミングサービスも DRM を使っている。試しにスクリーンショットを撮ってみてほしい。真っ黒な画面が映るはずだ。あれもスクリーンショットを検知した際に、ハードウェア側で復号を止めているからである。
20代半ばくらいまでには「海賊版対策」、アラサーからアラフォーくらいの人には「マジコン」対策、年金受給世帯には「SONY勤務」と伝えると大体わかってくれる。外国人には"PlayStation Security"と言えば完璧だ。9割くらいから「任天堂で働かないの?」と聞かれるので、そのときには「東京に住みたかったからw」と言えば大体納得してくれる。
仕事の流れ #
仕事の流れは結構適当だ。なんちゃってアジャイル開発をしている。冠についているアジャイルって何?という感じである。良くも悪くも慣れてしまった。というか、アジャイル開発をすることが目的ではなくて動くソフトウェアを書くことが目的で、あまり PlayStation の開発にはアジャイルっぽいのは向いていない気がするので形式にこだわっても仕方がないなっていう…という感じで、今日もなんちゃってで開発をしている。私が「真のアジャイル開発を求めて」この会社を飛び出す未来はそう遠くないかもしれない。
もうちょっと面白さについて詳細に。面白さを感じている点としては作業としては設計を考えたり、仕事で初めて書く C++(C++20!)について色々学びながら書くところだ。良い設計を考えるには、ユーザーやシステムによる制約を考えて、性能や拡張性を追求する必要があるのでちょっと資産運用のリスクを考える作業と似ていて楽しい。ただ、セキュリティに関してはあまり興味がなく(安全なソフトを書くのは興味があるが)、拡張性やパフォーマンスへの寄与の方が興味がありドメイン選びをミスった感もある。ここは知識が身についたら楽しくなるのかもしれないと思って、ぼちぼち付き合っている。
バッファー #
月並みな感想だが、転職直後の期間は思ったより結果が伴わない。体感は 8 ヶ月バッファーが必要だった。PC が壊れていた期間や夏休みの期間を合わせて 2 ヶ月くらい何もしない期間があったので、実際は半年くらいは金だけもらっていると感じる期間があった。そのときの経験を踏まえると、最初は自分の中でプロセスを確立することが大事だと思った。仕事の進め方(自分のチームは文字ベースでのやり取りは円滑に進まず出社もしないので、朝会で Teams での MTG を差し込むのが大事だった)、コードの書き方(Tips として共有したりされたり、レビューで適宜伝えることでチームの最低限のレベルを上げる)、チームの文化(内輪だと良いが新しい人的にはきつい言い方がされているか吟味して適宜注意する)などを理解しつつ周りにもフィードバックを与えて、自分のやり方を確立することが重要だと思った。転職が一般化してくるとオンボーディングが重要になるので、私の次の人が入ってくるときはもう少し整った状態にしたい。
働くより株主になれ #
あと、働いてて思うのは SIE というよりは SONY がだが、株主を非常に意識した経営をしている。例えば、事業内容は利益率の高いものに集中しているのは感じるし、新規事業をするのは大変だ。一方で、M&A には積極的で、BungieやHaven Studiosなどを買収している。社内で働くとこれらの公開情報のヘッダーラインが良く流れてきて自ずと意識してしまう。 これは株主にとっては良いことだとはわかる反面、正直 SONY の社員の給与は大して上がっていないのでジリ貧になるよりはマシだが労働者としては「もっと金くれよ」という感じ。今のインフレの時代には給与が上がらないと生活が苦しくなるので、社員のモチベーションを上げるためにももう少し還元しても良いのではと思う。(一般論として、最近給与が上がったというニュースは聞くが、原資はボーナスだったり、残業規制が厳しくなり税金・社会保険料も増えているので実質的に使える金額は減っているというのは聞く…)
あと、こういう買収先はカドカワやバンナムのような国内企業もあるが、国外の企業が多い。駐在機会が増えるならプラスの寄与だが、そうでない場合は安く国内で働かされて投資している株主が儲けるだけというまさに資本主義を感じさせてくれるなと思う。現場で働く人間としては、長期的に見て従業員へも適切に果実が配分される設計にしてほしいと強く感じる。なんか良い落とし所はないものか。
Conclusion #
このブログ主、給料が上げられると思ったら転職しそう。(他人事)